意識は、瞬間ごとの脳領域間の双方向通信が最も強いネットワークに動的に宿る?

脳は、領域同士が複雑につながったネットワークで構成されており、意識もこの複雑なネットワークが担っているとするのが主流の考え方だ。しかし、脳のネットワーク内のどの部分が意識を担うのかは、今のところ解明されていない。

ただし、まったく進展がないわけではなく、技術の進展と共に、わずかずつ脳というブラックボックスに光が差し込みつつある。これまでの研究から、意識を担う場所がどこであるのかを解明する鍵として考えられるようになってきたのが、脳領域間の信号伝搬の「双方向性」だという。

例えば、物体を視認したときの脳活動を調べた研究では、情報の伝搬が順行性のみの場合には意識的な知覚は生じないとする。それに対し、順行性に加えて逆行性の伝搬もある場合、つまり信号が双方向にやり取りされる際には、意識的な知覚が生じることが示されているとした。

また、この信号伝搬の双方向性は、ものが主観的に見えるといった特定の意識的な知覚が生じるのに重要なだけでなく、起きているか寝ているかといった意識レベルにも深く関わることが示唆されているとする。

こうしたことから、脳内で意識を担う領域(部分ネットワーク)では、脳領域同士が双方向に接続しているのではないかと考えられるという。この仮説に基づくと、脳内のどの脳領域同士が双方向接続しているのか、またその双方向接続の強度はどの程度なのかを評価することが、意識を担う脳領域を特定するために重要なステップになると考察された。

しかし、脳のネットワークは数多くの領域で構成され、なおかつ複雑な構造を持つため、これまではそのような部分ネットワークの特定は困難だった。

そこでJST(科学技術振興機構)戦略的創造研究推進事業において、東京大学大学院 総合文化研究科の北園淳特任研究員、同・大泉匡史准教授、同・大学大学院 情報理工学系研究科の青木勇磨大学院生らの研究チームは、脳内ネットワークから、双方向の接続が特に強い部分ネットワーク、いわばネットワークのコアを高速に特定できるアルゴリズムを開発。そして、その開発したアルゴリズムをマウスの脳構造のネットワークに適用することにしたという。この脳構造のネットワークは「コネクトーム」と呼ばれており、マウスの場合は脳全体の約400領域間の接続を表すものである。

その結果、特に強い双方向の接続を持つ「ネットワークコア」は、これまでの研究において、「大脳皮質」、「視床」、「前障」など、意識を担う重要な部分であると示唆されてきた領域であることが確認された。その一方で、「小脳」などの意識に直接的に寄与しないとされてきた領域は、やはり含まれないことが明らかにされ、それらは2022年7月21日に主に大脳皮質に関する全般を扱う学術誌「Cerebral Cortex」において発表された。

今回の研究成果は、脳内ネットワークの双方向性と意識が関係している可能性を示唆しているとする。また、ネットワークコアには、現在までの研究で意識との関係がまだあまりわかっていない領域も含まれていたという。今後、そのような領域も含めて、双方向の接続が強いネットワークコアと意識の関係がより深く解明されることが期待されるとしている。

なお今回の研究では、マウスのコネクトームが解析されたが、コネクトームとは解剖学的な接続を表すネットワークのことだ。しかし、ある瞬間の意識体験に直接的に寄与するのは、解剖学的な接続そのものではなく、脳活動の結果として生じる脳領域間の双方向の信号伝搬であると考えられている。

ある領域間に解剖学的な双方向接続が存在するとしても、必ずしも常に信号伝搬が存在することを意味しているわけではなく、信号伝搬のある・なし、また強弱は時々刻々と変化する。この変化に応じて意識を担う部分ネットワークも変化しうることが考えられるという。つまり、このような意識の動的な変化を捉えるために、今後の研究において研究チームは、脳活動データをもとに信号伝搬を定量化し、コアを抽出することに取り組む予定とした。

今後、脳内ネットワークの双方向性と意識の関係がより深く理解されれば、将来的に、意識障害などの理解や治療に役立つことも期待されるとしている。

【研究成果】脳内で双方向の接続を持つネットワークのコアを同定 ~意識を担う脳領域の解明に向けて~ - 総合情報ニュース - 総合情報ニュース

サイエンスライター:波留久泉(D)
(画像出典元:東京大学2022年7月21日プレスリリース)